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『ドロドロ血』は怖くない!テストステロン補充療法で損しないために多血症についてしっかり理解しましょう

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男性更年期障害の治療として行われる「テストステロン補充療法(TRT)」について、よく耳にする副作用のひとつに「多血症(polycythemia)」というものがあります。

「たけつしょう(多血症)」ってあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、これは文字通りですが、酸素を運ぶ役目の”あの”赤血球が増えすぎて血液が濃くなる状態のこと。テストステロン補充療法(TRT)ではどうしても赤血球が増えやすくなるので、気をつけるべきポイントなんです。今回は、そんな多血症と上手に付き合うための知識や対策を解説していきます。

多血症って何?

多血症(Polycythemia)は医学的に言うと、血液中の赤血球数やヘマトクリット値(血液中に占める赤血球の割合)が通常よりも高くなっている状態です。主に2つのタイプに分けられます。

  • 真性多血症(Polycythemia Vera, PV)
    これは骨髄増殖性腫瘍の一種で、造血幹細胞の異常によって赤血球が過剰生産される病気です。
  • 二次性多血症
    高地に住んでいて酸素が薄い環境だったり、慢性の肺疾患がある場合、あるいはエリスロポエチン(EPO)が過剰に分泌される場合などに起こります。

どうして赤血球が増えると問題なの?

  1. 血液がドロドロになってしまう
    健康な血液(赤血球が適量)はサラサラですものね。しかし、赤血球が増えると血液がドロドロして粘り気が強くなって、血液の流れが悪くなります。その結果、細い血管に十分な酸素を届けにくくなったりします。
  2. 血栓ができやすくなる
    血液がドロドロして粘っこくなると、血管(静脈や動脈)で血栓(塊みないなもの)ができやすくなります。

どんなリスクや合併症があるの?

  • 脳梗塞
    脳の動脈が詰まってしまうと、神経系にダメージを与えてしまいます。
  • 心筋梗塞
    心臓に酸素や栄養を送る冠動脈が詰まって、心筋が壊死してしまいます。
  • その他の合併症
    出血しやすくなる、尿酸値が上がる(痛風のリスク)などが報告されています。

どうやって診断・治療するの?

診断方法

  • 血液検査(赤血球数やヘマトクリット値のチェック)⇒ スタンダードな診断法です
  • 骨髄検査(真性多血症の可能性がある場合)
  • 酸素飽和度の測定(二次性多血症かどうか調べるため)

多血症の検査指標として「赤血球数」や「ヘマトクリット(Hct)値」が用いられる理由って?

多血症の検査指標で「赤血球数」や「ヘマトクリット値」が用いられるのは、血液の”濃さ”がわかるためです。それぞれの役割を見てみましょう。

赤血球数

赤血球数は、血液1μLあたりに含まれる赤血球の総数を示す指標で、正常範囲は性別や年齢によって異なります(成人男性で約4.5~5.9×10⁶/μL、成人女性で約4.1~5.1×10⁶/μL)。多血症では、この値が基準値を超えて上昇することが特徴です。

  • 意義: 赤血球は酸素運搬の細胞(「働く細胞」で永野芽衣ちゃんがやったキャラ)であり、その数が増加すると、全身の酸素供給能力が一時的に向上する可能性があります。しかし過剰な赤血球数は、血液をドロドロ、ねばねばにさせてしまい、循環障害や血栓形成リスクを高めます。
  • 診断への活用: 赤血球数の上昇は、多血症の有無を確認する初期スクリーニングとしてとても重要です。また、二次性多血症(例:慢性低酸素症)と真性多血症(骨髄異常による赤血球増加)の診断にも役立ちます。

ヘマトクリット(Hct)値

多血症の診断基準では、コチラの方が有名かもしれませえん。ヘマトクリット値は、全血液量に対する赤血球の容積比率を示します。通常、成人男性で約40~50%、成人女性で約35~45%が正常範囲とされます。この比率が50%以上になると多血症と言われます。

  • 意義: ヘマトクリット値は、赤血球量だけでなく、血液全体のドロドロ、ねばねば状態を反映します。特に、多血症ではヘマトクリット値が高くなることで、末梢循環への影響や合併症リスク(例:脳梗塞、心筋梗塞)が高くなります。
  • 診断への活用: ヘマトクリット値は、多血症の重症度を評価する上で重要です。例えば、真性多血症ではヘマトクリット値が60%近くまで上昇することがあります。一方で、高ヘマトクリット値は脱水など他の要因でも生じるため、総合的な評価が必要です。

なぜ2つの指標でWチェックされるの?

相互補完的な評価ができるから
  • 赤血球数は、血液1μLあたりに含まれる赤血球の総数を示す数値です。
  • ヘマトクリット値(Hct)は、全血液量に占める赤血球の体積割合を指します。

どちらか一方だけでは見逃しがちな情報も、両方を組み合わせれば、赤血球の増加量と血液の濃さ(粘度)を相互に補完しながら、いわば”立体的”にチェックすることが可能です。

診断基準として重要な指標
  • 世界保健機関(WHO)の診断基準によれば、
    • 男性: ヘマトクリット値>49%、赤血球数>5.9×10⁶/μL
    • 女性: ヘマトクリット値>48%、赤血球数>5.5×10⁶/μL
      これらの値が多血症の判断材料として用いられます。

赤血球数とヘマトクリット値の両方を測定することで、臨床現場での確実な診断に結びつけやすくなります。

治療方針の決定にも役立つ
  • ヘマトクリット値が60%近くまで上昇すると、血液がさらにドロドロになり、脳梗塞や心筋梗塞などの重大な合併症リスクが高まるとされています。
  • このため、瀉血(しゃけつ)療法などの治療介入を行うかどうかを判断する際にも、赤血球数だけでなく、ヘマトクリット値を含む総合的な評価が欠かせません。

赤血球数とヘマトクリット値の“Wチェック”は、多血症のリスクを見逃さず、かつ必要に応じて早期に治療を開始するための重要なステップといえます。

テストステロン補充療法と多血症の関係

なぜテストステロンが増えると赤血球も増えるの?

テストステロンは、骨髄での赤血球産生を促進する作用があります。具体的には、腎臓で分泌されるエリスロポエチン(EPO)の調節や、骨髄の造血幹細胞に直接働きかけることで赤血球の増殖を促すと考えられています。
テストステロン補充療法(TRT)で外部からテストステロンを補充すると、その濃度が急に上昇するため、相乗的に赤血球数やヘマトクリット(Hct)値が上昇しやすくなるわけです。

多血症のリスク

多血症(Polycythemia)は、赤血球が増えすぎて血液の粘度が高くなる状態を指しますが、赤血球数やヘマトクリット値が基準値を超えると、血液が「ドロドロ」になって流れにくくなり、血栓(血のかたまり)ができやすくなることが大きな問題です。血栓によって引き起こされる代表的な合併症は、以下のとおりです。

  1. 脳梗塞
    脳の動脈が詰まって血流が途絶えると、神経組織にダメージを与えます。[1]
  2. 心筋梗塞
    心臓の冠動脈が詰まることで心筋細胞が壊死してしまいます。[2]
  3. その他の合併症
    出血傾向(血小板機能のバランス変化)や痛風の原因となる高尿酸血症などが報告されています。

テストステロン補充療法(TRT)における多血症は、症状がわかりにくい場合も多いですが、放置するとこれらのリスクが高まるため注意が必要です。

多血症はどの程度起こるの?

複数の研究報告によれば、テストステロン補充療法(TRT)を受ける男性のうち5~10%程度が多血症になると推定されています。しかし、実際の発生率は以下のような要因によってばらつきが生じることが分かっています。

  • 製剤の種類(注射・ジェル・クリーム等の塗り薬 など)
    注射製剤(例:エナント酸テストステロン)は、血中テストステロン濃度が急激に上がりやすいため、相対的に赤血球増加のリスクが高いとされます。一方、濃度の低いジェルやクリーム等の塗り薬は吸収速度が緩やかな分、リスクが低めになると報告されています。
  • 患者の年齢
    年齢が高いほど、心血管系リスク要因を併存している可能性があり、多血症による合併症が生じやすいと考えられます。テストステロンを補充する世代は、主に40歳を超えた中高年男性ななので、リスクは高くなりますね。
  • 基礎疾患の有無
    睡眠時無呼吸症候群(OSAS)や慢性心肺疾患などがある場合、もともと赤血球が増えやすい傾向があり、テストステロン補充(TRT)による多血症リスクが上乗せされる可能性があります。なので、睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の場合は、テストステロン補充療法(TRT)は受けられません。

ガイドラインの推奨

ヘマトクリット値が約54%を超えないように管理

欧米の内分泌学会や泌尿器学会では、テストステロン補充療法(TRT)を行う際に定期的な血液検査を実施し、ヘマトクリット(Hct)値が54%を超えないよう管理することを推奨しています。理由としては、54%を超えると血栓が生じるリスクが有意に高くなるというエビデンスがあるためです。ちなみに、男性の基準値は、男性は約40~50%とされています。

血液検査モニタリング頻度の目安

  • 開始前のベースライン測定
  • 開始3~6か月後の定期検査
  • その後は年1回程度
    (ただし、基礎疾患の有無やリスク因子が高い場合はより頻回に検査を行う場合もある)

ヘマトクリット値が54%を超えたらどうする?

  • テストステロン補充量や投与スケジュールの見直し。短期間の上昇の場合は、一旦補充を停止します。
  • テストステロン補充剤の変更(注射からジェル・クリーム塗り薬へ変更)
  • 瀉血(しゃけつ)などの対症療法

他にできる対策は?

禁煙

喫煙は酸素運搬効率を低下させ、赤血球の増産を促すため、禁煙することで多血症リスクを下げられます。

睡眠の質向上

睡眠時無呼吸症候群(OSAS)がある場合、CPAP療法などできちんと呼吸をサポートすると、赤血球産生の過剰刺激が減少します。

運動やメタボ改善

循環器系の状態をよくするだけでなく、血液の代謝バランスを整える効果も期待できます。

食事の改善

鉄分摂取の調整

ヘマトクリット値が高い場合、鉄分を多く含む食品(レバー、赤身の肉など)は控えめにすることがおススメです。

脂質やプリン体を控えめに

高脂肪食やアルコール、プリン体を多く含む食品(ビール、内臓肉など)は控えめしてください。

水分補給を意識

ヘマトクリット値が高くなる場合、手軽な対策として水分補給があります。以下にその理由と具体的な対策を説明します。

水分不足とヘマトクリット値の関係

繰り返しになりますが、ヘマトクリット値は血液中の赤血球の割合を示す指標です。水分不足や脱水状態では、血漿(液体成分)が減少し、相対的に赤血球の割合が増加するため、ヘマトクリット値も上昇します。この状態は「相対的赤血球増多症」と呼ばれ、血液が濃縮されて粘度が高くなり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まる可能性があります。

水分補給の効果

こんな時、適切な水分補給を行うことで、血漿量を回復させ、ヘマトクリット値を正常範囲に戻すことが期待できます。特に、日常生活や運動中に発汗量が多い場合には、水分補給を意識することが重要です。

具体的な水分補給方法
  • 1日の必要量: 一般的には1日2,000~2,500mlの水分摂取が推奨されています。そのうち約800~1,300mlは食事以外で補うように意識してみてください。
  • どんな水分がいい?: アルコールやカフェイン飲料(コーヒー、緑茶など)は利尿作用があるため控えめにし、水や麦茶などノンカフェイン飲料を選ぶと良いでしょう。
  • 飲むタイミング: 喉が渇く前に少量ずつこまめに摂取することがイイです。また、食事間隔が長い場合や運動前後には特に意識して補給してください。
水分補給の注意点
  • ヘマトクリット値が著しく高い場合(男性で55%以上、女性で47%以上)や症状(頭痛、高血圧など)がある場合は、水分補給では対応できないレベルなので躊躇せずに病院で診察を受けるようにしてください。

おわりに

テストステロン補充療法(TRT)は、男性更年期障害によるさまざまな不調を改善し、生活の質を高める有効な治療法です。しかしながら、その一方で赤血球が増えすぎる「多血症」のリスクがあることを知っておくことは不可欠です。もし多血症を放置してしまうと、血栓による脳梗塞や心筋梗塞といった深刻な合併症を招くおそれがあります。状況次第では、命の危険にさらされます。

そこで、治療中は定期的な血液検査でヘマトクリット値(Hct値)をはじめとする指標をこまめにチェックし、多血症の兆候(頭痛、吐き気等)があれば早めに対策を取ることが重要です。具体的には、テストステロン補充方法や薬の種類・量の調整、あるいは瀉血や禁煙・水分補給などの生活習慣の見直しを適宜組み合わせることで、赤血球の増加を抑えることができます。

多血症を恐れすぎるあまりテストステロン補充療法(TRT)を敬遠してしまうのは、せっかくのメリットを逃すことにもつながります。大切なのは適切なモニタリングと、リスクを理解したうえでの予防策の実践です。男性更年期障害の症状に悩む方が安心してTRTを受けられるよう、医療者と協力しながらしっかりと管理を行っていきましょう。

参考文献・エビデンス

  1. Calof OM, et al. (2005) Adverse events associated with testosterone replacement in middle-aged and older men: a meta-analysis of randomized, placebo-controlled trials. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 60(11):1451-7.
  2. Morales A, et al. (2004) Oral and transdermal testosterone replacement therapy: significance and implications. J Endocrinol Invest. 27(2):144-8.
  3. Bhasin S, et al. (2010) The endocrine society’s clinical guidelines on androgen therapy in men with androgen deficiency syndromes: an update. J Clin Endocrinol Metab. 95(6):2536-59.
  4. Bhasin S, et al. (2018) Testosterone therapy in men with hypogonadism: an Endocrine Society* clinical practice guideline. J Clin Endocrinol Metab. 103(5):1715-44.
  5. Snyder PJ, et al. (2016) Effects of Testosterone Treatment in Older Men. N Engl J Med. 374(7):611-24.
男性更年期障害の克服に必要なのは「ひとりじゃない」と思えること

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タツヤ
タツヤ
男性更年期障害予防改善アドバイザー
1971年生まれ。
2010年頃から動悸、めまい、発汗、倦怠感などの症状に悩まされる。
様々な病院で検査を受けるも原因が分からず『診断難民』状態に。
その間、体調は悪化するばかり。
2019年頃から体調不良(不定愁訴)が顕著に現れる。
2022年11月ホルモン検査の結果、男性更年期障害の診断を受ける。
以降、テストステロン補充療法を中心に治療を続け、合わせてテストステロンをアップさせるための生活習慣の改善に取り組み、2023年11月時点、テストステロン値も正常になり、男性更年期障害の症状は改善する。
現在は、自身の経験を活かし、SNS(X【旧Twitter】)やblog、同じ悩みを持つ方々によるコミュニティ、さらには各種メディア出演など通じて、男性更年期障害を中心としたメンズヘルスに関する情報を発信している。

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