なぜ今、男性更年期障害が浮き彫りに? 社会・経済・医学から読み解く理由
「男だから大丈夫」・・・そんな言葉に隠れて、見過ごされてきた男性の不調が、今、社会の表舞台に浮かび上がってきています。
疲れやすい、イライラする、なんだか気力が湧かない…それは“年齢のせい”だけではありません。
今、注目される男性更年期障害、またの名をLOH症候群は、社会・経済・医学、すべての変化が絡み合い、その存在感を一気に強めています。
なぜ今、男性の「心と体の揺らぎ」が問題視されるようになったのでしょうか?
戦後の経済成長が生んだ“男らしさ”の呪縛、ストレスまみれの現代社会、寿命の延びとともに変わるライフスタイル、そして医学の進化・・・すべてが、この男性更年期障害の問題を浮き彫りにした背景だと考えています。
この記事では、男性更年期障害が今、顕著化、顕在化している理由を徹底的に解き明かします。
今の時代を生きるすべての男性と、そのパートナーの人たちに知っていただきたい・・・その理由を知れば未来は、もっとラクになるはずです。
なぜ今、男性更年期障害が顕著になったのか?
男性更年期障害(LOH症候群)は「今に始まった病気」ではありません。
長年、男性たちはその心身の不調を「年齢のせい」「気のせい」と適当に片付けてきました。
しかし現代になり、なぜここまで「顕著に問題視される」ようになったのでしょうか?
その理由を、社会・経済・医学・生活環境といった多角的な視点から解き明かしてまいります。
高度経済成長期からの“男は働いて一人前”の価値観の残滓(ざんし)
日本の戦後復興から高度経済成長期(1950~70年代)にかけて、社会は「男は家族を養うために働くべき」という「企業戦士の美学」を強く打ち出しました。
80年代になると、アノ有名なCM「24時間働けますかぁ~ ビジネスマーン、ビジネスマーン、ジャーパニィーイズ、ビジネスマーン」という今でもばっちり耳に残るメロディーに代表されるように、モーレツ社員の時代に突入しました。
モーレツ社員のマインドは、家庭より仕事です。
当時の男性像 ー 抑圧された健康意識の代償
「男たるもの、強くあれ!」・・・高度経済成長期の日本では、そんな価値観が男性を縛り続けていました。
さらに、こんな価値観もありましたね。
終身雇用と出世競争:安定した職場で働き続け、出世することこそが「男らしさ」の証明。
弱音は許されない:「不調を訴えるのは弱さ」とされ、体の不調も心の揺らぎも隠すのが当たり前。
理解されない心と体:精神的な疲弊やホルモンバランスの変化など、見えない不調は「気合いと根性」で乗り切るものとされ、健康問題としてすら認識されない。
働いてこそ一人前:体を酷使して長時間働くことが“美徳”とされ、「健康を犠牲にしてこそ価値がある」という歪んだ文化が横行。
どうですか?
懐かしさと共に、なんて時代だ!って、怒りさえ湧いてきませんか?
結果、中高年男性の心と体の不調は長い間、見て見ぬふりをされ続けてきました。「男だから」「大丈夫だろう」と誰もが無意識に背を向けてきたのです。放置プレーさながらに・・・。
しかし・・・この無理解が、どれほど多くの男性を苦しめてきたことでしょうか。気づかれなかった不調、見捨てられた健康 -それは、時代が生んだ「不幸な代償」にほかなりません。
ホント、今振り返っても”ふざけた”時代でした(怒)
平均寿命の劇的な延びと“人生100年時代”の現実
戦後の日本は、驚くほどの速さで「長寿国」へと進化しました。
医療技術の進歩、栄養状態の改善、衛生環境の向上・・・これらが追い風となり、日本人男性の平均寿命は50年で飛躍的に延びたのです。
1950年:男性の平均寿命は約58歳
2020年:男性の平均寿命は81.64歳
わずか数十年で、23年以上の伸び。これは「世界に誇れる成果」です。
しかし、寿命が延びたからこそ、私たちは新たな問題に直面しています -「健康寿命」と「加齢によるテストステロン低下」です。
見過ごされがちな“健康寿命”とテストステロンの減少
平均寿命が延びても、健康で活動的な時間が延びなければ意味がありません。
ここで見逃せないのが、男性ホルモン「テストステロン」の減少です。
そう、テストステロンは、男性の「活力の源」です。「オトコ」を「男」たらしめているのが、テストステロンというホルモンなんです。
我々男性の、筋肉や骨密度を保ち、意欲や集中力、感情の安定を支えてくれています。
しかし、そのテストステロンの分泌量は20代をピークに減少し、40代からは年1~2%ずつ低下していきます。
50代:20代の約70%まで減少
60代:ついに20代の50%以下に・・・
これはまさに、「ホルモンの激減期」と言えるでしょう。
さらに寿命が延びたことで、この「テストステロン低下期」が長くなり、40代〜60代の男性にとって、男性更年期障害が顕在化しやすくなってしまったのです。
ストレス社会とホルモンバランス―現代の中高年男性を追い詰める見えないプレッシャーとは!?
現代の中高年男性は、まさに「挟み撃ち」の状況にあります。
経済的・社会的なプレッシャーと家庭内での役割増加 – その両方が重くのしかかり、男性ホルモン(テストステロン)にも深刻な影響を与えているのです。
仕事・・・終わりの見えない負荷の増大
バブル崩壊以降、日本経済は長い停滞期に入り、働く環境も大きく変わりました。
- 雇用の不安定化:リストラや非正規雇用の増加により、「明日は我が身」と常に不安がつきまとう。
- 管理職世代の板挟み:40代~50代の管理職は、「プレイングマネージャー」として現場業務とマネジメントの両方を求められることが多く、負荷は増大するばかり。
「もっと結果を出せ」「部下も育てろ」―そんな声が飛び交う中、彼らは疲れた顔一つ見せずに戦い続けるのです。なんて過酷な環境だったのでしょう。
家庭・・・“イクメン”の現実と終わらない責任感
今や男性が育児や家事に参加するのは当たり前の時代。しかし、「仕事も家庭も100%完璧に」というプレッシャーは、想像以上に男性の心と体を蝕んでいます。
- 「家庭を守る」と「仕事で結果を出す」の両立:やるべきことは増える一方で、時間と体力は限られている。
- 誰にも言えない孤独:「弱音を吐いたら甘えだ」と感じ、抱え込んでしまう孤独感と自己犠牲の連鎖。
多くの中高年男性は言葉にできない疲れを抱え、表情には出さないまま、心の中で叫んでいるのかもしれません。
「助けてくれ~」って。
ストレスとテストステロン・・・ホルモンが崩れる悪循環
最大の問題は、こうした慢性的なストレスが、男性ホルモンであるテストステロンを容赦なく減少させることです。
わたしは、加齢よりも、その影響度は高いと考えています。
- ストレスホルモン「コルチゾール」:強いストレスを受けると分泌されるコルチゾールが、テストステロンの分泌を抑制する。
- ホルモンバランスの乱れ:コルチゾールが増えれば増えるほど、テストステロンは減少し、疲労感や意欲低下、抑うつ状態といった更年期症状が悪化する。
つまり、ストレス → テストステロン低下 → 心身の不調 → さらにストレス増加
この負のスパイラルが、現代男性をジワジワと追い詰めているのです。ジワジワと・・・気付いた時には・・・という状況です。
「耐えるだけの時代」から抜け出すために
現代社会は、中高年男性に過剰な責任と無言のプレッシャーを与え続けてきました。
その代償として、多くの男性が心身のバランスを崩し、男性更年期障害を早期に発症させ、あるいは悪化させています。
しかし、これはもう「気合い」で乗り越える時代ではありません。
自分の体と心の声に耳を傾け、ストレスとどう向き合うかを知ること。
それこそが、人生100年時代を生き抜くためのカギなのです。
「頑張り続ける」だけが男らしさではありません。
自分の弱さを認め、自分の弱さに向き合い、時に泣き言を言って、時に弱音を吐く。
そうして自分を守る強さこそが、これからの男性の新しい生き方なのではないでしょうか?
それが、ある意味、現代版の”男の強さ”と言えるのだと、わたしは考えていますj。
生活習慣の変化―運動不足と栄養の乱れ
高度経済成長期には肉体労働が多かった一方で、現代はデスクワーク中心の働き方が主流です。
– 運動不足による筋力低下。基本、座りすぎです。
– 食生活の偏り(高脂肪・高カロリー食品、アルコール・カフェインの増加)や栄養バランスの乱れ。
– 睡眠不足や不規則な生活リズム。
これらの生活習慣の乱れが、ホルモン低下を加速させ、更年期障害の症状を悪化させる要因になっています。
医学の進歩と認知度の向上
最後に、現代における男性更年期障害の顕在化には、医学的な進歩と啓もう活動による認知度UPの成果も大きく関わっています。
男性ホルモン研究の発展
20世紀後半、女性ホルモン研究が進む中で、男性ホルモン(テストステロン)の役割も解明されるようになりました。
特に、男性の更年期症状が「LOH症候群」として定義され、血液検査で数値として可視化できるようになったことが大きな転機です。
医療機関と専門外来の増加
「男性更年期障害専門外来」が街中に開院されたり、泌尿器科、内科等での診察が進み、治療可能な病気として認知が広まりました。治療の領域に入ってきたことは大きいですよね。
メディアの影響と情報発信
認知度UPのもう一つの立役者は、メディアです。
– テレビや雑誌、インターネットなどで取り上げられる機会が増えた。
– 患者の体験談や専門医のコメントを通じて、一般の男性にも「自分ごと」として理解が深まった。
なんといってもメディアが取り上げ始めたことが大きいですね。
わたしも、いくつかのメディアに取り上げていただき、その一翼を担えたのかなと思っています。
メディアが男性更年期障害に関心をもってくれたことで、「自分の原因不明の症状が、もしかしたら男性更年期障害かもしれない」という気付きを多くの男性に与えてくれたことは間違いないですからね。
さいごに ー 時代が男性更年期障害を浮き彫りにした
見え始めた“男性更年期障害”という社会的な課題。それは結局、時代の変化そのものが、男性更年期障害の存在に光を当てたからではないでしょうか。
男性更年期障害の要因はひとつではありません。複雑に絡み合いながら、”現代”というステージで浮かび上がってきたのです。
1. 高度経済成長期が生んだ「男は強くあるべき」という価値観の残存。
2. 平均寿命の延びとともに訪れる新たな健康課題。
3. ストレス社会がもたらす心の負荷とテストステロンの低下。
4. 生活習慣の変化―運動不足や乱れた食生活が加速するホルモン低下。
5. 医学の進歩がもたらした「見える化」と認知度の向上。
これらが時代とともに重なり合い、今、男性更年期障害は社会的な課題”として浮き彫りになったのだと思います。
しかし、この動きをネガティブに捉える必要はありません。
むしろ、これは「時代があなたの健康を後押しし始めたサイン」です。
そうです、あなたにとってフォローの風が吹き始めたのです。
「気のせい」「男だから大丈夫」・・・そうやって放置されてきた不調が、今ようやく認められ、向き合うべきものとして社会が動き始めた。
そうです。これは、あなたが、より健康的に、よりラクチンに、そしてより豊かに生きる未来への一歩なのです。
ここで「人生100年時代、延びた時間をどう生きますか?」という問いを、あなたにさせていただきます。
かつての時代なら、テストステロンが低下する年代にはすでに人生の終盤を迎えていました。
しかし「人生100年時代」を迎えた今、40代〜60代はまだまだ“働き盛り”であり、“人生の折り返し地点”に過ぎません。
だからこそ、この時期に訪れる男性更年期障害の症状は、単なる「老化現象」ではなく、これからの人生をどう健康に、充実して生きるかの分岐点と言えるのです。
寿命が延びたからこそ、今こそ自分の健康と向き合う時。
平均寿命の延びは、間違いなく人類の大きな進歩です。しかし、その一方で、「健康寿命とのギャップ」、そして「テストステロンの低下」という現実に向き合う必要があります。
「まだまだこれから」と思える人生100年時代だからこそ、自分の体の声に耳を傾け、これからの人生を健康的で、前向きなものにしていく時ではないでしょうか?
これからあなたは、自分自身の変化に気づき、受け入れ、行動することで、未来は、もっと明るく、もっと前向きに変わるはずです。
“時代”が変わったのなら、あなたの生き方も、あなたの健康も、アップデートしていきましょうよ!